雪村螢子

-浦飯幽助限定女神-

 螢子ちゃんて、女の子の幽遊ファンの間では評判がよくないらしくって(麻弥ちゃんほどじゃないだろうが(苦笑))、「好き!」という話はほとんど聞かないのに、「嫌い!」とか「苦手!」とかいう話は結構、よく聞く。
 私はどちらかといえば螢子ちゃんを尊敬しているので、「螢子ちゃんもあんだけ苦労しているわりに、報われてないなあ」とか思っていたら、なんと冨樫先生が、『ヨシりんでポン!』という御本に掲載されているインタビューの中で、嫌いなキャラクターを訊ねられ、「雪村螢子、漫画のキャラクターとしてありがちだから」と答えていらっしゃってて、実は冨樫先生御自身が螢子ちゃんを気に入ってなかったことが判明!
 すると、「螢子ちゃんが嫌い」という皆さんは、実は冨樫先生の御意向を正しくくみ取っていたことになるんだな……う~ん。
 まあ、顔がよくてスタイルがよくて性格がよくて運動神経がよくて頭がよくて、主人公の男の子を一途に思っている、という非のうちどころのないヒロインてのは、少年マンガでは確かにありきたりで、そこらへんが冨樫先生のお気に召さなかった部分なのかもしれないけど、私は螢子ちゃんの魅力とか存在価値に、そういうことはまったく関係ないと思う。
 それにさあ、ありがちってのはわかるけど、螢子ちゃんてばあんなに苦労させられたのに、嫌われるなんて気の毒じゃない!
 私は螢子ちゃんが好き。螢子ちゃんはね、本当に特別な存在だと思うの。
 幽遊を螢子ちゃんメインで読んでみると、彼女は見事なくらいに、幽助としか関わっていないことがわかる。
 普通のキャラクターってのは、複数のキャラクターとのつながりあいをもって、ストーリーにからんでいくものだけれど、螢子ちゃんてのは幽助しか見てないし、幽助としか話してないし、幽助にしか影響を与えてない。もちろん、幽助以外のキャラとおしゃべりとかはしているけど、螢子ちゃんが幽助以外のキャラに対して、何らかの影響力を発揮したためしは一度もない。それで、幽助にしか影響を与えないかわりに、その幽助に対する影響力が大きいわけ。
 なにせ、幽助が積極的に頼りにしている人物ってのは、螢子ちゃんひとりっきり。わらにもすがりたい気持ちの時に、幽助がつかみに行く「わら」は螢子ちゃんだと私は思う。
 それじゃあ、どうして、螢子ちゃんじゃなけりゃいけないのか……私は、これはインプリンティングなんじゃないかと思う。
 小さな頃から幽助を助けてきたのは、螢子ちゃんだけだった(まあ、温子さんもそうだったんでしょうが……)。たとえ、どんなに幽助に邪険にされようとも、螢子ちゃんは幽助を見捨てなかった。
 そういう過去の蓄積が、どんな時でも、螢子ちゃんだけは助けてくれる、螢子ちゃんだけは見捨てない、どうにもならなくなった時には螢子ちゃんに頼ればどうにかなる、という「常識」を幽助の中に植え付けたんじゃないんだろうか。
 実際、螢子ちゃんは無敵でもなければ万能でもなくって、そこらへんの女の子よりはパンチカがあるかもしれない(大笑)が、結構、無力で、しょせんはどこにでもいるか弱い女性である。しかし、幽助の中には、「螢子は無敵で万能」という考えが、まるで事実のごとくにインプリンティングされている。
 ある宗教の信者にとって、その宗教が崇める神様は「無敵で万能」だけれど、その宗教を信じない人にとっては、その神様は存在の有無さえどうでもいい、まったく無力な存在であるように、螢子ちゃんは幽助だけが信じている「女神」なのだから、他の人にとって「無敵で万能」である必要はないのだ。
 幽助が螢子ちゃんを信じている限り、螢子ちゃんは幽遊というマンガにとって、絶対必要不可欠なキャラクターだが、幽助がいなければ、螢子ちゃんはまったく存在価値がない。しかし、幽助はこのマンガの主人公である(違う人もいるらしいけど(苦笑))。だから、螢子ちゃんはこのマンガにとって、絶対に必要な存在なのだ。
 幽助にとっての螢子ちゃんを一言で表現するとすれば、それは「御守り」である。
 とりあえず、身近に置いておけば安心できて、不安な時は握りしめ、ピンチを乗り切った時には「これのおかげかな」と思わせる……というあたりが、螢子ちゃんの御守り的なところである。
 御守り自体に力はない(とか言いきっちゃったら、いろんな方面から苦情が出そうね)。ただ、ギリギリの場面に立った時、どんなに努力してもどうにもならない場面になった時、「なんとかなる!」と信じきる(というか自分に思い込ませる)力を支えてくれるよすがが、必要になることもあるのだ(あの超強気な幽助にでも!)。
 で、幽助にとってのそれが、螢子ちゃんであると、私は信じている。
 それに、螢子ちゃんて、本当に幽助のことをよく守ってるよね。
 私が特に螢子ちゃんはエライな、って思ったのは、暗黒武術会の時に、霊光玉を継承して、疲れきって眠りこけてる幽助に付き添ってて、妖怪たちにからまれた時のあの対応。
 螢子ちゃんてば、幽助をしっかりと抱き寄せてかばう姿勢を見せたじゃない。
 ああいう場合、私だったら、「のんきに眠ってないで、起きて、私を助けなさい!」とかわめきながら、幽助をたたきおこして、自分を守らせようとするね、絶対。
 本当の絶体絶命になるまでは、幽助に頼ろうとしない、あの強さが好きだなぁ。


 螢子ちゃんにとっての幽助ってのは、自分に都合のいい時だけ言い寄ってくる、わがままで身勝手でどうしようもなくて、「こんな男に自分の人生あずけられるわけない」と確信しつつも、捨てるに捨てられない男だと思う(ひどい言いようだけど、ああいうのは、幽助だから許せるんであって、他の男が似たようなことやってたら、絶対に許さないね、私は)。
 だから、螢子ちゃんは幽助に命はあずけても、人生はあずけないと思うのね。自分の力でちゃんと立って、どんなに幽助に振り回されようとも、絶対にゆるがない自分のポジションを確立しているような感じがあるのよ。
 幽助に魔界に行くと切り出された時、螢子ちゃんはかるーく幽助をあしらって、「バイバイ」とまで言っちゃってる。あの時の螢子ちゃんの余裕の対応ってのはすごい。なんか、「私はあなたに箇単に切り捨てられるほど、軽い存在じゃないわよね」と威しをかけているような目だった。
 「私はあなたが何しようと知らないよー」とバッサリ切り捨てちゃっても、幽助がおとなしく切り捨てられるような男じゃないって、ちゃんと承知したうえで、幽助を切り捨ててる(で、その威しをプロポースで切り返しちゃう幽助は、タダモノではない)。「これ以上、幽助にあまえられてたまるか!」と思いつつ、最終的には、しっかりあまやかしちゃうだろう自分がわかっているんだろうな、多分。
 あまやかさないぞ、という姿勢をみせつつ、幽助をあまやかすというのは、螢子ちゃんと飛影ちゃんの得意技よね(蔵馬なんか「どんどんあまえていいんですよ」と顔によく書いてある(大笑))。


 私が螢子ちゃんの立場だったらさ……絶対に幽助となんかつきあいきれないと思う。
 私、幽助のこと大好きだけど、あの螢子ちゃんのポジションてのは、女としては、すっごくツライと思うんだよね。
 幽助は、螢子ちゃんの隣にいても、螢子ちゃんだけをみつめてくれるような子じゃないでしょ。螢子ちゃんがすぐ横にいても、なんかすっごい遠くを見ていて、何か思い立ったら、すぐに螢子ちゃんを置き去りにして、いずこへともなく走ってっちゃうような子でしょ。それって、すっごくせつないだろうな、って思う。
 いざとなったら、必ず助けに来てくれるだろうけど、そんな緊急時だけじゃなくって、いつも手の届く場所にいて欲しいよね。それなのに、幽助ときたら、同じ空の下にもいてくれないもんなあ(人間界の空と魔界の空はどっかでつながっているんだろうか?)。
 以前の幽助ってのはさ、かなり螢子ちゃんの独占物っぽくって、それこそ、幽助のことなら知らないことは何もない、って感じだったんだろうけど、それが気づくと、自分の知らない仲間とつるんで、知らないところで血を流して戦って、何度も死にかけて、本当に死んで(苦笑)、あげくに人外の者にまでなっちゃってるんだもん、えらい騒ぎだよ。
 知らないうちに自分より背が高くなった、なんて言えてるうちはまだかわいげがあって、知らないうちに街ひとつぐらいは箇単に壊せるようになってた、なんてしゃれにならないよ、実際。
 螢子ちゃんの知らない顔を幽助はたくさん持つようになってしまっていて、幽助はそれを螢子ちゃんに語らないだろうけど、螢子ちゃんはそれに気づかないほど鈍感ではない。
 多分、気づいてるけど、気づかないふりをしている。黙っている。
 そんなことでいちいち幽助をせめていてもしょうがないし、螢子ちゃんにだって女の意地があるだろう。
 だから、強がって、「幽助が何しようと私には関係ないわ」と見捨てたふりして、それでもやっぱり幽助のことを見捨てられないから、螢子ちゃんはツライのだ。
 そして、それでも幽助にあたることなく、なんでもないふりして黙って、自分だけをみつめてくれない幽助だけをみつめているから、螢子ちゃんはエライのだ。
 昔の幽助は、螢子ちゃんに見捨てられたら、それだけでもう世界から孤立してしまっていただろう(温子母さん除外)。だけど、今の幽助にはたくさんの仲間がいる。螢子ちゃんがいなくなっても、幽助を大事にしてくれる人がたくさんいる。
 それでも、幽助にとっては、螢子ちゃんは螢子ちゃんで、世界にたったひとりの大切な女神さまで、大切さは少しも変わってないと思う。
 だからさ……あんだけ幽助に大事に思われるんなら、螢子ちゃんになってみたいな……だけど、やっぱり私なんかじゃ絶対に身がもたないと思うしな……う-ん。


 だからさあ……螢子ちゃんてのは「かわいい女」であり「いい女」だと私は思うのよ。
 あの螢子ちゃんに育てられた(といっても過言ではないと思う)から、幽助はいい男なんじゃないかなあ、ってね。
 螢子ちゃんは、今はきっと、いい先生になってると思う。
 あの幽助を教育(?)してたんだから、どんな生徒がきたって大丈夫だろうしね(笑)。
 幽助とつきあっていくのは大変だろうけれど、螢子ちゃんにはいつまでもいつまでも、幽助の女神さまでいて欲しいな。

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