-美しい人-

 私はあんまり躯に愛がない(ごめんなさい)。
 理由はあまりにも情けないんで言いたくないんだが言っちゃうと、飛影ちゃんをひとりじめにしたあげくに、殺しかけて、飛影ちゃんの過去を勝手に読んだあげくに自分の過去を書き込んだから、である。
 多分、飛影ちゃんがからんでさえいなければ、好きな人なんだと思う。単なるジェラシーである。どーせ、心が狭いよ。私は!(特に飛影ちゃんがからむとね)
 この人は当初、なんかすっごくつき抜けてて、何にも縛られないで好き勝手やってる人のように見えてたが、実は誰よりも過去に縛られた人だった。
 美しい生まれたままの半身と、自分の意志で焼いた半身は、彼女のどっちつかずな状態をよく現していると思う。
 みずからの過去を呪わしく思うと同時に、過去に帰りたがっている。自由な未来を切望しながらも、それがどういうものなのかがわからなくって立ち止まっている。……ここらへん、飛影ちゃんと似たようなことやってるなあ、と思うわけで、躯が飛影ちゃんを必要としたのも、そこらへんに理由があるのかもしれない。
 躯はねぇ、飛影ちゃんが欲しかったんだと思うよ。飛影ちゃんを、あれだけ切実に欲しがった人ってのは躯が初めてで、飛影ちゃんもそれを感じているからこそ、躯の元に居座っているんじゃないかと思う。あの子は、「必要とされること」に弱いよね。きっと。
 氷菜さんの氷泪石に触れて、少なからず救われた躯だったけれど、それでもやっぱり石は石なわけで、躯はもっと「いいもの」が欲しくなったんだと思うの。生きて、動いて、しゃべってくれるものがね。
 多分、明確にそういう考えがあったわけではなくって、飛影ちゃんが仙水を追っかけて魔界に戻ってきた時に、氷泪石と同じ妖気を感じ取って(黄泉が蔵馬の妖気をかぎとったんだから、躯にだってできるでしょう)、その氷泪石の持ち主が生存しているとわかった時に、これはもう何がなんでも会ってみたい、手元に置いてみたい、と思ったんだろうな。
 で、飛影ちゃんに会ってみたら、躯と同じく、氷泪石の癒しがなければ生きていけない、親の愛を求めてさまよう子供で……何かもうあまりにもハマりすぎちゃってたんだろうなあ。
 しかし、ハマりすぎちゃってるのも問題で、結局、似たもの同士だから、二人で手を取り合って「明るい未来を目指そう!」なんてことにはならない(幽助×飛影ファンとしては、なってもらっちゃ困る(苦笑))。
 そうなるには、やはり幽助という「別の力」が必要だったわけだ。
 私はね、躯は幽助に以前の雷神さまの姿を見たんじゃないかな、と思うのね。
 雷禅さまの墓前に花を捧げた躯は、多分、雷禅さまを知っている。おそらくは、隠居した雷禅さまじゃなくって、やんちゃ盛り(?)の雷禅さまを。
 で、幽助の行動を見て、「ああ、そういえば昔、こんなバカがいたなあ」って思い返したんじゃないかと……。
 たくさんの妖怪がいる中で、躯に素顔をあらわにさせたのは幽助だった。飛影ちゃんだけだったら、多分、できなかったことだけど、飛影ちゃんがいなかったら、やっぱりできなかったことだと思う。


 ところで、躯ってばどうして、あそこまで飛影ちゃんを追いつめなければならなかったんだろうね。
 飛影ちゃんをあんなところに閉じ込めて、殺し合いをさせて、傷だらけにして、それで躯にどういうメリットがあるんだろう。
 戦士になるには全然、強さが足りなかったから、少しでも早く強くして、戦士の称号を与えて、自分のそばに置きたかったのかなあ。それとも、追いつめられた時に、飛影ちゃんがどうなるかを知りたかったのかなあ……う-ん。案外、躯には飛影ちゃんを追いつめているという自覚がなくって、彼女としてはあたりまえのことをしてただけかもしれない(それはヤだなあ)。
 飛影ちゃんと時雨さんの勝負の直前に、「真剣勝負は技量にかかわらずいいものだ。決する瞬間、互いの道程が花火の様に咲いて散る」と躯は言った。
 躯は飛影ちゃんがどんな花火を咲かせるかを、見てみたかったのかなあ……。
 左腕を捨てて斬り込み、腹を斬らせて頭を斬った(肉を斬らせて骨を断つ、より悲惨な状況)あの飛影ちゃんの闘いぶりに、躯は満足していたようだった(私なんかパニックだった(泣))。あの闘いに、躯は何を見たんだろうか。
 私にはわかんない。絶対に絶対にわかんないぞー!
 ところで、躯は「お前の意識は今までオレが触れたものの中で一番、心地いい」って言ってたけど、もしかして、戦士の地位にある連中の記憶は、全部、覗いてたりするのかな(プライバシーの侵害という概念は魔界にもあるんだろうか)。
 すると、時雨さんの過去のすべても躯は知ってるわけで、そうなると躯は飛影ちゃんが時雨さんから邪眼の移植手術を受けたということも知っていたことになる。この推測が当たっているならば、躯が飛影ちゃんの対戦相手に時雨さんを指名したのも、偶然ではなく意図的なもので、「知り合いか」とか言ったのも、かなりしらじらしいおとぼけ、ということで……ああ、やだな。なんか、ホンキでありえそうでヤだな。本当にそうだったら、そこまでくどくどしく、飛影ちゃんに過去をつきつけて、どうするつもりだったのかな……。


 冨樫先生のお言葉によると、躯のモデルは『風の谷のナウシカ』のクシャナ殿下らしい。……なんか、すっごくわかりやすい(苦笑)。
 クシャナ殿下の台詞に「我が夫となる者は、さらにおぞましきものを見るだろう」というのがある(記憶に頼っているので、もしかしたら違ってるかもしれない)。躯のモデルがクシャナ、というのを読んだ時、不思議にこの台詞が思い浮かんだ。
 毒に冒され、片腕を失い義手を使っている彼女が、金属の腕を見せながらそう言ってるんだけどね、躯は何も隠してないから(どうしてあの人は、あの時、ヌードだったんだろう)、見かけ的にはそういうものはないんだけど、なんとなく、躯は飛影ちゃんに自分の過去を見せた時、自分の中の「さらにおぞましきもの」をさらけだしてみせたかったのかな、って思った(しかし、飛影ちゃん=夫というわけではないです。決して!)。・……まあ、なんとなくの思いつきだけどね。
 それにしても、躯ってのは幽遊の女性キャラの中では、珍しく母性をまったく感じさせない女性(幽遊に限らず、冨樫先生の描く女性キャラは、男性キャラを保護する役を持っている人がほとんどなのよ)。
 躯は言葉遣いも服装も男っぽいけれど、もろに“女”な感じがする。
 なんとゆーか、この人は何かを生み出す役目を持った人じゃなくって、搾取する人のような気がする。奪うことでしか、何かを得られない……そういう人のような気がする。
 それに躯って、なんかわからないけど、生活臭をまったく感じさせないんだよね。どうしてかな……この人も、夜、寝るのかな、って感じするのは(私だけですか?)。
 躯って冨樫先生が恋人にしたいタイプの女性のような気がしてしょうがないんだけど、実際はどうなんだろうか?(あそこまではいかなくても、類似した女性は実在するよね……)。


 結局のところ、私が躯に対して言いたいことは、「飛影ちゃんをいじめるんじゃないーっ!」とか「飛影ちゃんにハッピーバースディって言ってもらえるなんて、ねたましすぎるーっ!」とか「飛影ちゃんをひとりじめするんじゃないーっ!」とかいう抗議ばかりなので、もう、腹が立つばっかりで、躯についてはあんまり考えたくないの。
 ……って、ここまで書いてきて、結局、話は最初に戻るのだった……情けない。

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