雷 禅

-比類なき魔界の王者-

 雷禅さまって、本当に幽助とよく似ている(笑)。
 純粋でエゴイスト、無邪気で傍若無人、おバカで一途、めんどうみはいいんだけど、一度、決断しちゃったら誰の言うこともきかないで、わきめもふらずに道のないところをガンガン進んで、誰も彼もおいてっちゃう(誰が泣いてすがっても、引きとめられない)。なんかもう、どうしようもない男だけど、そこがかわいいんだ。幽助も雷禅さまも!(とか思ってるのは私だけかもしれないが……)
 この人はね。もうなんでもできちゃって、誰よりも強くって、負けたことがなくって、多分、コンプレックスとかトラウマとかまったくない人生を歩んでたんだと思う。
 コンプレックスやトラウマゆえに強さを求めた躯や黄泉とはスタート地点がまったく違うんじゃないかと。
 一点のくもりなく、歪みなく、けがれのない希有な存在……それが雷禅さまだったんだろう。
 躯や黄泉が、かなり苦労して強くなったのに対して、雷禅さまは恨みも憎しみも飢餓感もなく、あれだけの強さを手に入れていた。
 そんな負けることを知らなかった雷禅さまに、初めて敗北感を与えたのは、非力な人間の女で、それこそもう、天地がひっくりかえるほどのショックであると同時に、感動だったんだろうと思う。
 思いどおりにならなかったことなど何もなかっただろう雷禅さまに、初めての敗北感を与えた女との出会い。そして、初めての挫折を与えただろう女の死。
 多分、反省とか後悔とかいう言葉とは無縁に生きてきて、過去を振り返ることなんかなかっただろう雷禅さまは、その時、初めて自分の人生をかえりみて、同時に初めて未来について考えたんだと思う。
 その結果、雷禅さまはすべてを放り出して隠居してしまった(北神さんたちもさぞや困惑しただろうな)。
 700年もの長きに渡って、雷禅さまはひとりっきり、あんな暗い場所で、何を考えていたんだろうね。
 雷禅さまのハンストは、結果的には緩慢な自殺であったけれど、私は雷禅さまは死ぬつもりで断食をやっていたわけじゃなくって、やっぱり自分で決めた食脱医師さんと再会するまで人間を食べない、という決めごとを、律儀に守り続けただけなんだと思う。なんか、願掛けみたいになってたんじゃないかな。


 雷禅さまが、幽助を自分の元に呼び寄せたのは、純粋に自分と、あの食脱医師さんの子孫を自分の目で見てみたかった、ってこともあるだろうけれど、自分が死んでしまった後、途方に暮れるであろう北神さんを筆頭とした部下たちに、希望になるようなものを遺していってやりたいと思ったせいもあるんじゃないかな。
 雷禅さまって、みずから進んで国をつくろうとするタイプのようには見えないから、雷禅さまを慕って集まってくる連中を放っておいたら、いつの間にか人数が増えて国ができあがってた、ってのがあの国の成り立ちなんじゃないかって思う。
 自分で進んで部下にしたわけじゃなくっても、自分を慕ってくれて、食を断って部下を置き去りに死にかけているような自分でも、見捨てずに黙ってついてきてくれてる者たちを、見捨ててはおけないでしょう、やっぱり。
 幽助を初めて見た時、雷禅さまは何を思ったのかな……。幽助の中に見たのは、自分の血ではなく、食脱医師さんの面影だったのかな……。
 幽助に「誇りに思えよ。いい女だった」と言った雷禅さまを、かわいいと思う。本当に惚れ込んでたんだよね。雷禅さまみたいないい男に、「いい女だ」って言わせる女は、スゴイと思うよ。うん。
 だいたい「一晩かけておがみ倒した」って、正直に言っちゃうあたりがまたなんとも……。
 一晩中、お願いだからおれの女になってくれ、とか言って、頭をさげまくって、口説きまくって、すりよってたのかい、あの雷禅さまが(北神さんあたりが見たら、卒倒しそうな光景だったかもしれない)。かわいすぎる。
 でも、あの食脱医師さんは、情にほだされるとか、おがみ倒されて意志をまげるとかいうことをするような女性には見えなかったから、やっぱり雷禅さまのことが好きだったんだと思うんだよね。
 雷禅さまがどう思ってるかは知らないけれど、二人は両想いだよ。絶対。


 雷禅さまは、生まれついての王者だった。
 煙鬼さんが言ったように、躯や黄泉がおよぶはずもない、誰にもけがされず傷つけられない、王者として生まれた王者だった。
 けれど、そんな強大な力を持っているのに、本人が本当に欲しがっていたものは、結局、手に入らずじまいだった。
 幽助は衰えていく雷禅さまの力を借しんだけれど、雷禅さま本人としては、まったく借しいもんじゃなかったんじゃないかな。自然に手に入れていたものだから、失ってもあんまり借しくなかったんじゃないかな。
 欲しいものは、自分が求めて求めて、それでも手に入れられなかったもの。
 恋する気持ち、自分よりも強いと認めた者に対する畏怖、大切なものを失う哀しみ、自分の無力に対する情けなさと悔しさ、何かを強く求める心……食脱医師さんが与えてくれたどんな小さなものも、雷禅さまは捨てたくなかったのかもしれないと思う。そして、それだけをみつめて生きていたかったんじゃないかと……。
 まあ、残された煙鬼さんたちのことを考えると、とにかくわがままなヤツだったんだな、って思うけど、雷禅さまを動かせるのは雷禅さまだけだから……みんな、結局はあきらめるしかなかったんだろうな。

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