気がついたら、地に足がついていなかった。
見下ろすと、五メートルほど眼下に道路があって、黒山の人だかりがあって、その中心部がポッカリと空いていて……そこに横たわる自分の姿があった。
わけがわからず、ぼうっとしていると、聞きなれた声が耳に飛び込む。
「螢子ちゃん……」
今にも泣き出しそうな声に振り返り、その主を確認し、螢子はようやく現状を把握した。
「……迎えに……きたよ」
常に元気なぼたんの、今にも消え入りそうなかぼそい声があまりにも痛々しくて……螢子はおもわず微笑んでしまった。
笑うような場面でないことはわかっていたが、そうしなければ泣きだしてしまいそうだったからだ。
「やだなぁ……車に轢かれて死ぬなんて、幽助のまねしたみたいじゃない……」
そんなつぶやきを残して、螢子は現世を去った。
遅すぎた救急車のサイレンが、彼女を送り出すファンファーレのように鳴り響いていた。
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