お手をどうぞ、お姫さま


第一幕 国王御一家はお元気

 広い広い魔界のどこかにとある王国がありまして、それを統治しているのは、雷禅という名の強くて強くて強い王さまでございました。そして、その強くて強くて強い王さまには、躯という名の強くて強くて強いお妃さまがおりまして、その強くて強くて強い王さまと強くて強くて強い王妃さまには、幽助という名の強くて強くて強い一人息子がおりました。
 さて、その幽助王子は、そろそろお嫁さんをもらってもいいお年頃になっておりまして、めんどうくさがりの王さまは世話好きの侍従長につつかれて、国中どころか国外まで飛び歩いてる冒険好きの王子さまを呼び出しました。
「おれはどうでもいいんだが、北神のやつがうるさくてかなわなくてよぉ。おめぇ、てっとりばやく結婚できそうな女とかいねぇのか?」
 開口一番、そんなことを言いながら大あくびをしている王さまを、王子さまはむすっとした表情でみやります。
「んなこといきなり言われて、てめぇの都合通りにいくと思ってんのかよ、クソ親父」
「誰がクソ親父だぁ? 女の一人もとっつかまえらんねぇガキのくせに、生意気こくんじゃねぇ」
「うっせぇなぁ。おれは女おっかけてるほどヒマじゃねぇんだよ。……なぁ、プー」
 幽助がかたわらにうずくまっている騎乗獣のプーに向かって語りかけると、プーはあまえるようにすり寄ってきます。
「てめぇみてぇなガキ、女抱いてるよりも、プーに抱きついてるのがお似合いだ。なんならプーと結婚すっか? ドハデな結婚式あげてやるぜ」
「おうおう。そんじゃあ、マジにやってもらおうじゃんかよ」
「おっ、言ったな。おれはやると言ったらホントにやるぞ」
「……お言葉ですが、国王」
 雷禅陛下と幽助殿下のまことに王族らしい格調高い会話に、侍従長の北神が大きなため息をつきました。
「私は王子とご結婚についてご相談くださいと申し上げただけです。最初からそのように喧嘩腰にならなくても……」
 北神の泣きが入ったところで、沈黙したまま、夫と息子の会話に耳を傾けていた王妃が、ようやく口を開きます。
「おまえに今のところ結婚したい女がいないことはよくわかった。では、どんな女なら結婚してもいいんだ?」
「結婚してもいい女かぁ……う~ん……」
 問われて、幽助は考えこんでしまいました。
 実を言うと、幽助は生まれてこの方、結婚について考えたことがなかったのです。
「おれは、ガリガリに痩せてて、長くてまっすぐな黒髪の女がいいな。それで腹に毒でも蓄えてりゃ最高!」
「おまえはどの女のことを言ってるんだ」
 夢見る瞳で理想の女性像を語る夫に、髪が黒くもなければ長くもない妻が、おもいっきりアッパーカットをくらわせると、彼は天井をぶちぬいて飛んでいってしまいました。
 その様子を見て、幽助がポンと手を打ち合わせます。
「おれ、強ぇ女がいいな!」
「では、国で一番、強い女性を探し出してまいりましょうか?」
「それはまずいだろう」
 北神の提案を、躯はあっさりと却下してしまいました。
「は? 何故でございますか?」
「国で一番、強い女はおれだからだ」
「申し訳ございません。失礼を申しました。……では、国で二番に強い女を……」
「いんや。今のランクなんざどうでもいい」
 北神の提案は、今度は幽助にきっぱりと却下されてしまいました。
「は?」
「今、少しぐらい弱くても、いずれ一番になれそうな……そんなやつがいいな、おれ」
「そのようなことを申されましても……」
「では、おまえのために武闘会を開いてやろう」
 困惑する北神の言葉を押しのけて、躯が結論を出しました。
「国中に布礼をだして、おまえの嫁になってもいいという腕におぼえのある女を集め、それを闘わせよう。そして、その中におまえが気に入るような闘いぶりをする女がいたら結婚すればいい。いなかったら、この話はしばらくおあずけだな」
「おっ。そりゃいいアイディアだな。うん。それでいこうぜ」
 そんなわけで、国王陛下のいないところで、王太子妃選びのための武闘会の開催は決定されたのでありました。

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