「老いるのが怖い。それは弱くなるということだから」
あんたはそう言った。
同じ思いが、自分の中にないと言えば嘘になる。
苛酷な修業に耐え培ってきたこの力を、手放すのは悔しいし、いつか若い力に追いぬかれる日が来ることを考えると、いたたまれないものを感じる。
けれど、それは乗り越えるべきもの、乗り越えられるものだ。あたしたちの師もきっと、そんな思いに耐えあたしたちに技を伝授してくれた。
老いて死ぬ。
そんな自然の流れの中で、あたしたちは永遠に続くもの――『技』とそれを伝える『心』――の一部になれる。『死』と『滅び』は同じものではない。
『死ぬ』ということは『想い』と『想い』をつなぐ大いなる流れの中で、永遠の眠りにつくということだ。
だからあたしは言ったんだ。
「あんたが年をとれば、あたしも年をとる。それでいいじゃないか」
あんたはあたしを置いていかない。あたしはあんたを置いていかない。二人で同じ道を歩んでゆく。同じゴールをめざしていく。
それでいいじゃないか。それは、すばらしいことじゃないか。
誰もあんたのかわりにはなれない。あんただけが人生の伴侶なんだ。
そう思ったのに。そう思っていたのに。
あんたはあたしを裏切った。それも、一番ひどいやり方で。
あんたは時を止めた。
あたしを残して、時を止めた。
『老い』を捨て『力』を得て、あんたは何を生みだした?
皮肉なはなしじゃないか。『生』を求めたあんたが生みだしたものが『死』だけだったとはね……。
そして、あたしはみつけた。
あたしが受け継いだすべてを託すべき『器』を。あたしの『想い』を継ぐ者を。あたしが理想とする『力』を持つものを。
見るがいい。あれがあたしの『命』。あたしはあんたを超えるんだ。
そして、知るがいい。あたしの望みは決して潰えない。
あたしは永遠を求め、それを得たのだから。
あたしはあんたのためだけに死ぬ。あんたのことだけを想い、あんたの力の前に死ぬ。
あたしの命はあんたのものだった。けれど、あんたはそれを拒否した。だから、あたしはあんたを超える者を求めた。
わかって……あたしはすべてをあんたに捧げたのだということを。
忘れないで……あたしはあんたを裏切らなかったということを。
そして、やつこそがあたしがあんたに残してやれるたった一つの遺産だということを……知って欲しい。
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